研究は鰻重をつくるようなものである①
曲、本、エンブレム、世の中八百万のものに「権利」というものが生じます。
少しでも権利を侵害してしまうと、裁判沙汰になってしまうこともしばしばです。
私たちは何を作るにしても、先人と少しでも違うものを作らねばなりません。
論文も当然同じのようです。
ここで突然ではありますが、研究室をうなぎ屋さんに例えるとしましょう。
うなぎ屋さんはウナギを仕入れて捌き、串にさしてタレにつけて焼きます。
ここで使うそれぞれの語句について説明。
鰻重:自分の論文
ウナギ:論文で課題にしたいテーマ
ウナギ屋の師匠:研究室の先生
ウナギの焼き方(レシピ):研究室の伝統的な研究手法
秘伝のタレ:研究室に代々ある資料
新しく継ぎ足すタレ:自分の研究で得た資料
です。
私たち学生は、鰻重のサイズ、味にふさわしいかつ自分の力で捌ける程度のウナギを、あらゆる釣り具を駆使して釣ってこなければなりません。そうして自分で論文のテーマを捕まえます
そしてウナギ屋の師匠の下、ウナギ屋伝統のレシピにしたがってウナギの焼き方を学びます。研究室ごとの、研究分野ごとのお作法、なんてものがあったりするので、慎重に。
次に、研究室に代々伝わる先代、またその上の代の関連研究を先行研究として比較したり、参照したりして自分の課題テーマに味付けをしていきます。そして、自分自身が得たデータ、現代にしかないものであったり、先代の時代には発見されていなかったことをつぎ足し継ぎ足しして、再び後世に残していきます。
こうして自分の鰻重は完成し、多くのお客さんに食べてもらう。しかしその前には偉大かつ辛口な美食家たちがいて、その人たちに認められて初めて、自分の鰻重、論文が日の目を見る。
こんな感じでしょうか。あくまでたとえですけれどねw
実際の論文を見てみよう
こうして手も足もでなくなったため、Webで研究者の論文を試しに読んでみようと思いました。大学で授業を行う方は大抵、論文を書いているはずです。普段のあの講義の教授は、いったいどんな論文を書いているのだろう。そう思ってネットで見たところ、その内容に唖然としました。
あっさりすぎる・・・!
学者さまの論文ですから、まあこむつかしいことがいっぱい書かれているだろうとみてみると、内容は至ってシンプルでした。(文系)欲張らず、どの論文も『一論文につき一議題』だったように感じました。それだけでも私にとっては大きな気づきでした。
自分はあれもこれもやろうと思っていたが、先生たちでもこんなにシンプルなのだから、自分もシンプルに考えていこう。そう思いました。
自分でプレッシャーをかけすぎていたんだと思います。自分が書きたいなあとざっくりでも思っているテーマがあれば、それを論文検索にかけてみるのもいいです。先行研究がどのくらいあるのか、論文の書き方など、大体でも知ることができます。
Ciinie, Google Scholar、学会が公開しているものもあります。
試しに一度、検索してみてください。
▶論文をネットで検索してみよう
①先行研究の数を大体知ることができる
②論文の(実践的な)書き方が分かる
テーマが決まるまで
私は入学したての頃から、『伝統工芸』に興味を持っていました。
日本国が長い歴史の中で培ってきた技術や文化を生かしつつ、新しいものを作り続ける方法、もっと世界中の人にも、もちろん日本の人にも工芸品を知ってもらえる方法はないかと、様々な授業を三年間にわたって取ってきました。
環境デザイン、システムデザイン論、現代造形論、心理統計、森林経済論、基礎造形、農政経済、樹木学、博物館概論、芸術文化論、社会学、方言学、文化人類学、インダストリアルデザイン演習、アジア宗教思想史・・・・
このような授業を受講しながら、自分の中での伝統工芸についての意見はどんどん大きく、そして変化していきました。
しかし、いざ卒業論文のテーマを決めようと思うと、なかなか決めることができません。工芸と一口に言っても、経済面、文化面、技術面、教育面、デザイン面、切り口は無数にあり、授業を受けるたびにその切り口は増えて増えて、三角錐くらいだったのが
いろいろな一面が増え続け、気づいたら正十二面体ほどになっていました。
問題提起ができないことには、先行研究も、仮説もあったもんじゃあありません。
よく論文作成方法の本では、『疑問を書き出してみよう』とか『付箋を使おう』とか『情報カードを作ろう』とか、ライフハック的なものがよく紹介されています。
疑問がないから、何にも書き出せません!
あれも書きたいこれも述べたい、そうこうするうち私は、皮肉にも自分で集めた情報におぼれ、何もすることができなくなってしまいました。